作・演出&ドラマトゥルク対談
劇団しようよ さよならのための怪獣人形劇『パフ』の京都公演を控えて、作・演出の大原渉平とドラマトゥルクの稲垣貴俊が、『パフ』という作品について、また劇団しようよについて、必要以上にきちんと対談しました。
必要以上にきちんとしましたので、長文になってしまいましたが、まだ観るかどうか悩んでいる方、初演をご覧になった方、再演を観ようと思っている方、ぜひご一読ください!
大原 これ、喋ったことが文章になるんでしょう?そういうことをするのは初めてやなあ…。アフタートークでもないし。
稲垣 京都公演、まだ始まってないですからね。ふたりでアフタートークに出ることはあっても、稽古のあとにこうして喋って…というのは初めてですよね。
大原 でも、余計かもしれないけど、アフタートークで大事な話題を喋ることも多いじゃないですか。それがなくても面白い作品をつくらなきゃいけない一方で、知ってたほうが面白くなることもあると思うので。京都公演の前に、この対談を読んでいただいてもいいかなと思います。
稲垣 そうですね。まだ観るか迷ってる方は、参考にしていただいて。
大原 この文章で観るのをやめる人がいるかと思うと怖いですね。
稲垣 緊張感がありますね…。
大原 『パフ』は2013年度最後の作品で、人間座スタジオという、ぼくが初めて京都公演をやった場所で上演しました。3月で卒業式のシーズンだったので、1年間劇団に在籍していた期間劇団員の卒業公演にして。今回の再演は、まずバタバタと東京公演が決まって。まだ3月には決まってなかったんですが。
稲垣 まあ、終わってすぐに再演したいという話にはなりましたけどね。
大原 うん、ぜひ関西以外の方にも観てもらいたいという思いがあって。これまで大原渉平という作り手は、正直というか素直というか、20代の感性のまま表現をアウトプットすることが多かったけども、今回は異なる作風になれた気がして。
稲垣 確かに、これまでの劇団しようよ作品とは毛色が違うかもね。
大原 初演の時点で、ある種の手応えはもしかするとあったのかも…という感じですね。でも、まず再演のなにが一番の見所かというと、初演と舞台美術がまるで違うんですよ。初演は山肌みたいな壁があって、俳優が出たり隠れたりできる美術で。
稲垣 あれはあれで、劇団しようよにしては珍しい美術でしたけどね。
大原 今回、『パフ』の本質に改めて迫ったときに、初演の美術が果たして一番適切だったのかどうかを考えて。それを探っていくうちに、今回の美術になったんです。
稲垣 いま、本質という言葉が出ましたけど、物語も落とし所が変わっていて。着地のさせ方が違うので、初演をご覧いただいた方には、そういうところも注目してもらいたいですね。
大原 どこまで話すか難しいんですけど、『パフ』は兄弟の話なんですよ。でも、初演は兄弟の話でちゃんと終わらなかった気がして…。
稲垣 そう、確かに兄弟の向こう側をなんとか見ようとした感じはありましたね。
大原 なので今回は、「兄弟はどのようにそこにいるのか」ということをコンセプトにしました。そこで美術も変わり、芝居も変わり、展開も変わって。初演よりも小さいというか、まだ手の届きやすいことを描こうとしています。なので、初演で「ん?」と思った人こそ、もう一度確認してもらいたいですね。ちなみに、この変化についてはどう思ってますか?
稲垣 初演をつくっている時は、この作品をどういった文脈のなかに置くのか?という問いがまず大きくて。この社会のどこに『パフ』という作品を置くことができて、また作品の外部に向けて何を言うことができるのか…ということを軸に考えましたよね。でも再演は、物語の内側にしっかり潜ることを軸にしていて。どういうドラマを描けば、作品の本質をきちんと見せることになるのか、とか。その上で初演同様、作品の外部にどうやってアクセスするか?という問いにもきちんと繋げていこうという感じです。
大原 初演では、いわゆる社会との関係に目を奪われて、反面見落としてしまったことが多かったかも、と思ったので、今回はそのあたりも丁寧にやってみようと思いました。
大原 「パフ」という曲には小学校のときに出会って。この曲は、少年ジャッキーが、海辺でパフという魔法の竜と出会って、仲良く遊んだり冒険したりするんだけど、時間が経つにつれて、やがてジャッキーはパフに会いに来なくなった、というストーリーになってるんですね。3番の歌詞で、歳を取らない竜とは違い、ジャッキーはいつしか大人になり、というのがあるんです。今回はそこに着目しました。
稲垣 歳を取る、とはどういうことか、ということですよね。
大原 なにか、パフとジャッキーの関係が、大きな力によって変えられてしまったような印象があって。歳を取る…と言いましたけど、本当はジャッキーに何か起こったのかもしれない。環境が変わったり、事件が起きたとか、何かはわからないけれども。それは運命と言い換えてもいいかと思います。大きなものに左右される…ということは、ぼくらの周りにもいっぱいあると思うんですね。災いや事件もそうだけど、たとえば2時間後に雨が降る、っていうのも同じだと思う。とはいえ、ネガティブなことばかりでもなくて、たとえば誰かと出会えるみたいな、そういったことも大きな力だと思っていて。
稲垣 こういうことは、初演のアフタートークでも話しましたね。さっきの社会との関係性の話にもつながりますけど、トークではお客さんからかなり具体的に、実際に起きた出来事や事件のお話も出て…。
大原 うん。でも、お客さんが何を考えながらこの作品を観ているのか、すごく気になっていますね。今回、人形劇じゃないですか。いわゆる普通の人形劇に映るのか、もっと別のものが透けて見えるのか、今も気になっています。
稲垣 でも今回は、人形劇というスタイルで少年と竜のファンタジーをやる、ということに、初演より真正面からぶつかることになってますね。
大原 そうそう、人形が全部変わりましたからね。初演は基本がおもちゃで、お菓子もあればペットボトルもあった(笑)。
稲垣 なんでもあり、手で持てればすべて人形だと思ってた(笑)。
大原 今回はそれら全部を手づくりの人形にして。それも作品の見どころだし、また作品の焦点が絞れたとも思ってます。欲を言えば、なぜ劇団しようよが人形劇を扱ってるのか、ということも考えながら観てもらえたらうれしいですね。人形劇団ではないですから。もっとも、そうなっていくかもしれないですけど…。
稲垣 確かに、やってみてまだまだ掘り下げられる手法だなと思いましたよね。
稲垣 それにしても再演の稽古では、初演で気付かなかったことにたくさん気付きますよね…。どうしても、最初は作品を立ち上げるのに手一杯、ということがあると思うんです。そこで見落としていたものや、あえて切り捨てた部分を、拾い集めて再検討できる。そこで作品の別の側面が見えてきたりするのは再演ならではだと思います。
大原 再演をつくっていると、初演は作品の本当の面白さに到達できていなかったのでは…とすら思ったりして。もちろん初演時もできる限りのことはするし、到達しようとする。でも今回は、現時点で作品の本質に迫れてきていて、しかも元々やりたかったことが初演以上にできている実感があります。あと今回は、再演で初演と同じことをしてもいいんだなとも思えて。今やっても面白いことは全部やれば良くて、むしろもっと原点に戻って、そもそも何がしたかったのかを思い出すのが大事だなと思っています。
稲垣 だから、今回は舞台美術や人形が大きく変わったけれども、変えることが目的ということでは決してないですよね。初演の美術で今回やりたいことができるのであれば、今回も初演と同じ美術になったはずで。
大原 うん。あと、会場の空間性にも寄り添いたいところがあって。初演は人間座スタジオだった『パフ』が、今回はKAIKAという会場でどのように展開するのか、ということも大きいですよね。でも、作品で本当にやりたいことと、KAIKAの空間性を考え合わせると、結果的に相性が良いのではないかと思います。
稲垣 初演は期間劇団員の卒業公演ということで、彼らがメインで、高山涼さんと月面クロワッサンの西村花織さんにご出演いただきました。もっとも、今回から西村さんは劇団員になって…。今回の再演では、新たに、夕暮れ社弱男ユニットの御厨亮さんと、クリスティーナ竹子さんをお招きしています。
大原 御厨さんとは今年の2月に共演させていただいて。その時に、本番はもちろんなんですけど、楽屋やリハーサル中のパフォーマンス力の高さがとても印象に残っていて。その感じと今回の作品が合うんじゃないかと思ったんですよね。実は初演の時から、もし再演することができればぜひ御厨さんに、ということは思っていました。
稲垣 クリスティーナ竹子さんには、ちょうど1年前に『アンネの日記だけでは』にご出演いただきました。
大原 ぼくがピンク地底人さんで2回共演させていただいたのがきっかけで、1年前に初めて劇団しようよに出ていただいて。今回、2度目をお願いしました。初演に続いてご出演いただく高山涼さんもですけど、最近、何度も繰り返しお願いすることが増えてきて。作・演出と継続的に関係を結びつづけてもらう、ということに魅力を感じるようになってきてます。そういうこともあって、今回は確実に、みんなで同じ方向を見ようとしている実感がありますね。
稲垣 今回の『パフ』再演は、劇団しようよ新体制になって初めての作品ですが、そのあたりはどう考えてますか?
大原 そうですね、今回から山中麻里絵・藤村弘二・西村花織が正式な劇団員になって。お客さんにその変化が見えるのかはまだわからないですけど…。ただ、自分自身にも変化があって、彼らが劇団員になった途端に、いろんなものを乗り越えてもらわなければという熱が入ってきて。以前はそうじゃなかったというわけではないけど、求めることや、諦められないことが増えてきました。将来的に、劇団員が力を持っている、マッチョなカンパニーにしたいと思います。俳優にも劇団の魅力を担ってほしくて。
大原 ここしばらくそうなっていますけど、今後も作品を生み出してそれで終わりにするのではなくて、今回の『パフ』しかり、1月に再演した『スーホの白い馬みたいに。』しかり、作品を育てて進化させることをしたい。一作一作、しっかりとつくっていきたいです。
稲垣 そう、きちんとレパートリーとして通用するような作品を、時間をかけてつくりたい。それを京都だけじゃなくて、他地域でも発表できればと思います。
大原 今回はmade in KAIKAということで、KAIKAで時間をかけて作品をつくりました。昨年から京都芸術センターで作品をつくらせていただくようにもなったので、京都でじっくりいろいろ試しながら、作品を生み出していきたいと思います。
稲垣 『パフ』再演も、そんな展開のひとつであることに間違いはないので。
大原 東京公演が無事に終わって、いろんな意見をいただいて。どこをどう直すのか、どうしたらもっと良くなるのか、今はかなりクリアに見えてきています。これを喋ってるのは小屋入りの8日前ですけど、かなり変わってきてますね。
稲垣 本格的につくり直しているといってもいいかもしれませんね。
大原 だから、東京公演を観てくださった方からしても、すごく変わったと思ってもらえるような気がします。そもそも劇団しようよの拠点は京都だし、京都公演は、ぜひ京都のお客さんにたくさんご覧いただきたいです。劇団しようよ、変わってきているところがあるので、「劇団しようよか、なんだ」と思っている方にもぜひご覧いただきたくて。今回を観て、向こう3年観るかどうか決めていただければ。
稲垣 旗揚げ4年目ですので、1年目にご覧いただいて面白くなかった方々にも、そろそろ3年経ちましたよ、ということをお知らせしていきたいです。
大原 楽しみにしていただければと思っております。よろしくお願いいたします。